【教えて!ターさん】素材の組み合わせと特性

  • 教えてターさん!

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今回の「教えて!ターさん」は、糸・ニット初心者メンバーを交え、素材の組み合わせや特性に関するお話を伺いました。

なぜウールにアクリルを混ぜることがあるのか?糸を燃やすことでその糸が何からできているかわかる、など、意外と知られざる?お話も含めて、たっぷり2本立ててでお届けします。

※個人的な見解が含まれる場合がございます。あらかじめご了承ください。

佐野
佐野

始まりました、「教えて!ターさん」。
今回は入社してまもないメンバーをお迎えしています。

よろしくお願いいたします!

岡崎彩月
岡崎彩月
佐野
佐野

まだ入社したばかりですけど、なんとなく聞きたい方向性とかってありますか?編み寄りなのか、糸寄りなのか、とか。

糸寄りかもしれないです。糸を作るうえで、素材による良し悪しとか、何と何は合わせられないとか。先輩が商談後に計算をしてたりするので、何してるんだろう?とは思ったりしますね。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

計算するのって混率を出してるんじゃないかなって。
アクリルとレーヨンとその番手によって合わせた時に、アクリルが何%でレーヨンが何%っていう計算を、アクリルの太さとレーヨンの太さの差を割り出しているんじゃないかな。

そういうのって、アクリルが30%より多くなったら成立しないとかもあるんですか?そこら辺もよく分からないです。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

そこは結構グレーゾーンで、成立するものも成立しないものもあるね。

佐野
佐野

良し悪しっていうより、成立するかしないかの話ですけどね。

ターさん
ターさん

混率の話をすると、例えば一番安い秋冬素材で、ウールアクリルになると思うけれど、ウールの混率が高ければウール寄りになってくるし、アクリルの混率が多ければアクリル寄りになってくる。
アクリルが多いとウールよりアクリルの方が値段が安いから、安価な素材ができる。ウールを多くして風合いをよくするか。だからそれはどっちを取るかになってるよね。

そういうことですか。じゃあ、目的に応じて変えていくってことですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

アクリルが10%っていうものは作らないけども、ウールが10%ってことはあり得るよね。

ターさん
ターさん

アクリルが90%だとそれだけ安くなるけど見た目も風合いもアクリル寄りだよね。
ウールが10%入ってますよ、じゃあ10%より20%~30%の方が少しずつウール寄りになってくるよね。

じゃあ50%、50%でやったらどうですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

それは、ウール寄りになってくるけど、値段が高くなってくるからどうなんだろうな。
わりかし多かったのはね、アクリル70%、ウール30%とか。
で、本当に安いのはウール10%とかじゃないかな。

ターさん
ターさん

考え方としては、例えばウール原料の塊が1kgあたり5,000円という価格がついていて、アクリル原料の1kgの塊1,000円をどういう割合で混ぜるか。
アクリル90%で900円の原価になるんですね。で、5,000円のウールも10%使った方が500円。その価格だけだと1,400円という原料ができるよね。

ターさん
ターさん

それが逆になっちゃうと、ウールが90%だと4,500円と、アクリルが10%で100円だと4,600円の原料費なんですよね。
単純に値段だけで言うとそれくらいの値段の差がでちゃう。それだったらもう、逆にウール100%にしちゃった方が良かったね、ということになるよね。

確かに、そうですね。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

ウールアクリルとかのお話で、面白い言葉があって、 「毛混」って言葉があるんですよ。

毛が混ざるってことですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
佐野
佐野

「アクリルが主体だよ」っていう主語がつくんですよ。アクリル100%にせずに、ウールちょっと混ぜたよっていう言い方なんですね。
「アクリルの中に毛が混入されてるよ。毛がちょっと入ってるよ」という。

ターさん
ターさん

変な言い方が、ウールがちょっと多い毛混とか、ウール40%、アクリル60%とかなると、「ウールが40%も入ってる毛混なんですよ」とかね。

なるほど。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

「綿混」っていう言葉もあるんだけども、それはアクリルに綿が入ってるんだけどさ、その場合は、綿はあんまり高くないからだいたい綿50%アクリル50%なんだよね。

佐野
佐野

暗黙の了解ですね。

ターさん
ターさん

だいたいそんなぐらいかな。毛が高いから10%とか20%とかっていうのもあるけども、綿の場合は原料の綿自体が安いからね。綿10%アクリル90%ってないもんな。

佐野
佐野

バルーン』とかはウール70%アクリル30%で、あれを毛混的な言い方をすると、「逆混」って言うんですよね。なんだよ、その言葉って。

ターさん
ターさん

ウールが多いときは逆混。ただ、バルーンの場合は、アクリルを入れて糸を膨らませるためなので、安くするためとかっていう、そういう目的じゃないから。
だから、ウール自体もいいウール使ってるしね。

佐野
佐野

うーん。そうですよね。いいアクリルって意味わからない言葉を使ってますね。

ターさん
ターさん

そう。バルキーアクリル。

ああ、バルキーアクリルはよく聞きました。

岡崎彩月
岡崎彩月
佐野
佐野

あとは、その素材の組み合わせの観点で、成立するしないのをちょっと手前の難しいことがあって。
前回の話もそうなんですけど、分かりやすいのは「染色」かもしれないですね。染めの相性が悪すぎるもの同士っていうのはやっぱり存在するんですよ。

佐野
佐野

例えばレーヨンポリエステルは色合わせが難しい、とかあるんですよ。
ポリエステルだけ染める、レーヨンだけ染めるっていうのをやって、同じ色にしていくんですけど、そこの色割れっていうのがちょっと起きやすかったりとか。

ターさん
ターさん

色を合わせた時に、両方染めて「一見色」で合わせちゃう。そうすると、多少のブレがある。本当は、レーヨンとポリエステルをぴったし色を合わせて、元見本に合わせれば、ムラもなくなる。段ムラもすごく少なくなる。
チーズで染色した時に、内側と外側と多少色が違ってくるんだけど、その差も分かりにくい。

ターさん
ターさん

昔、綿アクリルのアクリル長繊維が流行ったんだけど、1990年代当時だと、糸って、撚り始めと撚り終わりって、撚り回数が変わってきちゃうんだよ。

ターさん
ターさん

始めの方は抵抗があるから、グッと撚りが入ってて、最後の方は撚りがちょっと開いた感じになる。それを繋いだ時にムラになる。内外差だけじゃなくて。

キュッと撚りが入っていると、染料が入らないってことですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

そうじゃなくて、キュッと撚りが入っているとやっぱり濃くなって見える。開いちゃってる部分と結んだ時に段ムラみたいに見えちゃうんだよね。
実際は、綿とアクリルをバラした時に色が違う。元見本に対して両方ブレてる。ただ一見色で元見本に合ってるっていう形になる。

一見色は、違う繊維を合わせることで元見本に合わせるっていうことですか。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

うん。だから例えば、アクリルサイドがちょっと濃くて、綿サイドがちょっと薄い。それをプラスマイナスで、 元見本に非常に近い色になってたりとか。
本来は、この綿とアクリルをきっちり合わせるから、 そういうことも少なくなるんですよ。

佐野
佐野

ターさんが着ているトップグレー風のフリースも、ある程度バラすと白と黒が出てくるんですよ。それが混ざって、パッと見、グレーに見えるんですよ。

そういうことですね。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

トップグレーって、簡単に言ったら、 白と黒の割合だけだから。だから、チャコールにするには黒の比率が多くなる。シルバーグレーは、少しだけ黒を入れる。

佐野
佐野

トップグレーは、結構どの素材も馴染みのある色なので、ウール100%でトップグレーのある糸とかちょっとほぐしてみると、 本当に白と黒が出てくるのが面白い。

じゃあ、細かく見れば、黒と白になっているんですね。面白いです!

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

紡績さんはトップを作る時に何対何の割合でこの色って決まっているからね。

佐野
佐野

専門用語がいっぱい飛び交っていますよね。

そうですね。「一見色」とかも普段の生活では聞かないですよね。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

これも仕事しないと使わないかもしれない。一見色も「パッと見た目の色」ということだね。

佐野
佐野

使っているうちに、それが専門用語だったのか、普通なのかが分からなくなっちゃう。自分が普通だと思っていると、そうじゃなかったりとかするから、都度聞いたほうがいいですよね。

そうですよね。先輩の商談に同席すると「ガス焼きシルケット」とか出てきて。何か聞くと、ガスで焼くんですとか、ツルツルにするんですとか。「えぇ!」みたいな(笑)。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

その名の通り、ガスバーナーで糸を焼くんだよ。焼くと表面の毛羽がなくなるんだよね。

ターさん
ターさん

だから、綿でガス焼きとかっていいんだけど、僕は前にレーヨンのスフ=炭繊維のやつをね、どうしても毛羽が出てるから、これ毛羽取るのにガス焼きしてくんない?って言ったら怒られてさ。
レーヨンってすごく燃えやすいのよ。だから、毛羽だけ焼けても、火がコーンの中に混じっちゃう。で、あとで発火して火事になっちゃう。そんなことどこもやんないよって。

ターさん
ターさん

単純に毛羽を焼けば綺麗になるかなと思ったのにさ、失敗だったな。

ターさん
ターさん

レーヨンのワタは長繊維と短繊維があるから分けて使うんだ。光沢があるのが長繊維、毛羽があってやわらかいのが短繊維なんだよ。

佐野
佐野

だからあれなんですね、「難燃レーヨン」っていう逆のものが生まれるんですね。
燃えにくいレーヨン。

ターさん
ターさん

一回レーヨンを燃やしてみたら、すっごく早く燃えていくから。導火線のようにサーッと燃えていく。

えー、怖い。アクリルとどっちが早いんですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

アクリルの方が遅いね。で、アクリルは玉になるから。綿とかレーヨンは綺麗に燃えていって、無くなっちゃう。ところが、ポリエステルとかナイロン、アクリルは石油から作っているから、チリチリチリチリと線香花火みたいに燃えていって、玉になる。

佐野
佐野

あー、そっか。炭というか。

ターさん
ターさん

触った時にちょっと硬い。だから昔は、この混率なんだっていう時に、糸をばらして燃やして、何と何の撚糸ものとかっていう。
燃え方が早いからレーヨンですね、とか。こっちは玉になるからアクリルですね、とかね。

佐野
佐野

混率を知りたいシーンって、お客さんから急にスワッチだけ送られてきて、何も情報がない時があるんですよ。物だけあって、番手も混率もゲージも何も書いてない。お客さんもそれが気に入ってるだけで情報を持ってないっていうし、ちょっとでもヒント探すために混率を知ろうとするんですけど。

佐野
佐野

僕も若い時、ターさんに「これ何だと思います?」って聞いたら「よし屋上に行くぞ、ライター持ってこい」って。それで、「この燃え方はポリエステルだな」って。

ポリエステル、アクリルの中でも燃え方ってあるんですか。

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

うん、多少やっぱり違うよね。で、あと匂いと。石油系でもやっぱり匂いが若干違う。作る時に入ってる薬品が違うから。
ただ最近そういうことを何年もしてないからね。今はちょっと自信ないかな。

佐野
佐野

昔は結構やってたんですか?

ターさん
ターさん

結構やってたよ。

佐野
佐野

動物の毛はどうでしたか?

ターさん
ターさん

毛は簡単。髪の毛燃やしたのと一緒の匂いだから。
さっきの話じゃないけど、アクリルウールでパッと燃やした時に、毛の匂いがすごく強ければ毛の混率が多いし、玉になるのが大きければそれはアクリルの混率が大きいし。

ターさん
ターさん

レーヨンを燃やす時なんかはね、手で持ってると危ないの。火の燃え方が早いからヒューって手元まですぐきちゃうから。何かで挟んで燃やしたね。

レーヨンは植物から作ってるからですか?

岡崎彩月
岡崎彩月
ターさん
ターさん

パルプから作るからね。だから早いんだよね。

佐野
佐野

「ガス焼きシルケット」って言ってくれるだけ丁寧ですよね。「ガスジル」とかって略したりするんで。そう言われるともう、もっと分かんないですもんね。

ターさん
ターさん

「連シル」とかって言うからね。連シルって、ガス焼きと薬品でシルケット加工を連続で一緒にやっちゃうんだよね。

ターさん
ターさん

ガスジルの場合は先にガス焼きして毛羽をとっておいて、その後にシルケットをかける。大量にやる時って、糸をパンパンにしなきゃいけない。たるんでいると綺麗にできないから、力でいくと3トンくらいの力で引っ張るんだよ。

佐野
佐野

シルケットって僕もそんなに実はよくわかってないんですけど、あれって薬品で光沢持たせるわけではないんですよね。

ターさん
ターさん

薬品で焼くんだよな。焼くって言い方おかしいけど、それで毛羽を取る。

佐野
佐野

かつ、ガスジルの場合って引っ張って戻るじゃないですか。納得したガスジルのイメージは、こう一本の糸が引っ張られるんで、引っ張るって要はちょっとねじれていくんですよ。
ねじれると糸がそういう扁平の形状に近づくっていうか。そうなるとちょっと光沢が出る、みたいなのがガスジルの原理らしいんですね。だから糸としては実は綺麗じゃないんですよね。

ターさん
ターさん

だからこうスジムラみたいに、ちょっと嫌な見え方する時も結構あったりする。
本当は、さっき言った連続シルケットの方がいい。

佐野
佐野

今、話の流れでシルケットになっちゃいましたけど、主語がシルケットになってるから、その前の「糸がなんなんだ」っていうところ分かんないですよね。綿の話してるのか、ウールの話してるのか。

ターさん
ターさん

ウールの場合、本来シルケットじゃないからね。

佐野
佐野

だいたいやっぱり綿ですか?

ターさん
ターさん

綿だね。麻はかかるのかなぁ。リネン自体光沢あるからね。

佐野
佐野

そうですね。意味ないことはないじゃないですか。

ターさん
ターさん

ラミーは光沢あるからね。そういう意味では麻は意味ないかな。

佐野
佐野

一旦今回の「素材の組み合わせと特性」についてはここまで!
次回は後編として「繊維長とマイクロン、糸の番手」について続きます。
お楽しみに。

まとめ

  • 「毛混」はアクリル主体に毛が少し入っている(10%~20%程度)混率を指し、「綿混」の場合は多くは綿50%アクリル50%のことが多い。
  • 異なる繊維を合わせる場合、素材によってはそれぞれ別で染める必要があるため、「一見色(パッと見たときの見た目の色のこと)」で合わていく。
  • 素材を知りたい場合、火をつけてその燃え方や匂いで大きく判別できる。
    • レーヨン・・・燃えやすく、燃え方も早い
    • ポリエステル/ナイロン/アクリル・・・チリチリチリチリと線香花火のように燃え、・燃えた後は玉になる
    • 毛・・・燃やした匂いは、髪の毛を燃やした匂いと似ている  など
  • 「ガス焼きシルケット(通称:ガスジル)」は、ガスバーナーで糸を焼くことで、表面の毛羽をなくすこと。
    • 綿やレーヨンの場合は、燃えやすいのでガス焼きはしない。
    • ガス焼きシルケットと薬品で連続でシルケット加工を施すことを「連続シルケット(通称:連シル)」という。

結びに

今回の「教えてターさん」はいかがでしたでしょうか。糸の世界にも、数多くの専門用語が存在するんですね。次回も引き続き、お楽しみに!